7
October

世界にいる友人たちの暮らしを想像してみる。
それぞれの土地には、それぞれの風が吹き、水が流れているだろう。
その風や水は、世界中を巡っている。

そればかりでなく、時代をも巡っている。
この流動する物質性は私たちのイメージの源泉となり、
実測できないもう一つの現実を形づくっている。

私たちが普段目にしているものは、実は目に見えない多くのものでできている。
例えばあなたが愛犬を眺めた時、それは犬の形を越えた何かであるというのは、簡単に想像できるでしょう。
ある農夫の汚れた手は、仕事の大きさをそのまま物語る。
ある森の入り口では、樹々の歴史においてその深さが、またその数において無限性が、一瞬のうちに私の中に感じ取られる。

この想像的な形態は、「ある」ようでいて「ない」。ーーこれは実は合理的機械主義からの偏見です。
この想像的な形態は、「ない」ようで「ある」。ーー私たち生活者からすれば、むしろ実感に近いのはこちらです。

音楽を聴いている時、一体、何を聴いているのだろうか。
音、それは振動です。振動を聴いて、楽しいのでしょうか。

音楽は、形において最も曖昧な芸術です。
しかし、生活者の生きる瞬間をイメージさせることにおいては、最も直接的な形式です。

この「世界で一番美しい本」は、生活者の生きる時間を集めた音楽集なのです。

(阿部海太郎・作曲家)